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名古屋地方裁判所 昭和53年(ワ)1836号 判決 1979年2月27日

原告

破産者熱田工業株式会社

破産管財人

田中嘉之

被告

岐阜信用金庫

右代表者

安田松男

右訴訟代理人

東浦菊夫

古田友三

主文

一  被告は原告に対し、別紙手形目録(一)記載番号1の約束手形一通を引渡せ。

二  被告は原告に対し、金五〇七万三、五九〇円及び

内金一五万二、六五〇円に対する昭和五三年七月一〇日以降、

内金二〇〇万円に対する同年七月三一日以降、

内金五〇万四、六〇〇円に対する同年七月三一日以降、

内金一九八万七、五九〇円に対する同年八月五日以降、

内金四二万八、七五〇円に対する同年八月五日以降、

各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一原告主張の請求原因1、2、3項の各事実及び同4項のうち被告が本件手形のうち番号1の手形一通を現に保管占有し、その余の番号2ないし6の手形五通につき自己のためその各支払期日にその各手形金を取立てた事実は当事者間に争いがない。

また、被告の主張(一)、(二)の各事実も当事者間に争いがない。

二そこで被告の主張(三)、(四)、(五)の各抗弁について検討することとする。

1 被告と破産会社が昭和五一年六月五日に締結した信用金庫取引約定第四条四項は、同条一、二、三項に定める担保権の設定及びその実行方法に関する約定(成立について争いのない甲第一号証参照)のほかに、たまたま右信用取引中に被告が占有するに至つた破産会社所有の動産、手形その他の有価証券を処分し、或いは取立るなどして、破産会社の不履行の債務に弁済充当することができる旨、債権者の占有下にある債務者の動産等につき債権者の自由処分権を容認した特約であり、このように、法定の原因によらず、また、約定担保権としての対抗要件をも要しない方法による右動産等の自由処分権を許容した破産者(債務者)とその相手方(債権者)との間の特約による権利取得の効果は、破産債権者すなわち破産財団を管理、処分する破産管財人に対して対抗し得ないものと解するのが相当である。してみると、破産会社が割引依頼のために被告(平田支店)に預けた本件手形の所有権は、昭和五三年六月八日の破産財団に帰属するに至つたものというほかはなく、前記約定第四条四項に基づき、右破産宣告前の同年四月三〇日に破産会社の不履行債務が発生したことを理由として破産宣告後における本件手形の留置き、取立権の取得を主張する被告の抗弁は採用することができない。

2  次に、被告は本件手形につき商法五二一条の商事留置権が発生したとして破産法九三条の別除権の存在を主張するが、被告のように信用金庫法に基づく信用金庫を商法上の商人と解することはできないから、右商事留置権発生の主張は理由がなく、右別除権の存在をもつて本訴各請求を不当とする被告の主張は、更に立入つて判断するまでもなく、その前提を欠いて、失当たるを免れない。

3  更に被告は、破産法一〇四条二号但書に該るとして、本件番号2ないし6の手形五通の各取立金についての被告の返還債務と、別紙手紙目録(二)記載1、12の各手形についての破産会社の買戻債務との相殺を主張するが、同条二号本文及び但書は、破産債権者が破産宣告前に債務負担を生ずるに至つた場合の規定であり、本件において破産会社の右手形取立金返還債務が発生した時期は、右返還債務を原告主張の損害賠償、不当利得のいずれに解するとしても、その各手形の支払期日であつて、いずれも破産宣告後であることが明らかであるから、被告は破産宣告後に破産財団に対して債務を負担した場合に該り、被告の右相殺の主張は、同条一号の規定に触れて許されない。

三かくして、被告の抗弁はいずれも理由がないから、原告は被告に対し、いまだ被告が保管占有中の本件番号1の手形の返還を求め得べく、また、その余の本件番号2ないし6の手形についても、前示争のない事実からすれば、被告が割引依頼を受けて保管中の右各手形を返還すべき義務があるのに、右各手形金を自己のため取立ててその履行を不能に至らしめ、原告に対し右各手形金合計額相当の損害を与えたものと認めることができるから、原告は被告に対し右合計額金五〇七万三、五九〇円の損害賠償金とその発生日たる右各手形の支払期日から各手形金額完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め得ることができる。

四よつて、原告の右各請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(深田源次)

手形目録等<省略>

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